天上天下唯我ドキュソん 殿堂入りおすすめネタ
は日々の相対的な浮き沈みを勘定して「幸せだ」とか「不幸だ」と言い、 浮き沈みが無ければ、次第にその「幸せ」も「不幸」も日常となっていく。 日常に埋没しそうになりながらも人はちょっとした幸福を目指して階段を上る。   その階段が幸福に向かっていると信じて。

そう。

殺伐とした東京という名の砂漠においても、「オアシス」はある。と信じて・・・・・・

 今回はそんなちょっとしたオアシスについて紹介しよう。




 地下鉄をいくつも乗り継いでシンポジウムに向かう。今日はおもしろい話が聞けるといいなぁ。 と思いつつ、最近の仕事の行き詰まり・閉塞感をこのシンポジウムをヒントに打開したいという思いがあった。















「うへ〜」( ´Д`)
  (げんなりした時にあげる声)




 シンポジウムを終え、また地下鉄をいくつも乗り継ぎ仕事場に戻る。

 今ひとつそのシンポジウムから インスパイアされるものが無かったということと

 乗り換えの度にホーム同士がやたら遠いということと

 夏なのに馬鹿の一つ覚えでスーツを着て、汗をだらだらかいている自分

という3つの合わせ技で ややげんなりしていたためにそんな声を上げた。
(げんなり:落ち込んでまではいないまでも気持ちがやや萎えた状態)


 こんな時は、いっちょ景気付けに、奮発してうなぎでも食べるか?! それとも、 この地下通路の端の方でおもむろに「腕立て伏せ」でもして自分に喝を入れ直すか?!

 げんなりした自分を分析して対策を検討する。

 ふと、そこへ流れを変える「一撃」 が急遽ぶち込まれた。

 このくそ暑くよどんだ空気が漂う地下鉄乗り換え通路の中で、唯一そこだけが 大型空調の冷房風によって極楽のようになっていた。




「うへ〜」(´¬`)

   (至福の瞬間にあげる声)




 思わず顔面神経が弛緩し、足が止まってその冷房風が出てきているエアダクトに、まるで体が吸い込まれるかのようにへばりつけられた。  斜め上方から吹き付ける冷たい風は、私の汗から気化熱を奪い、すこぶる気持ちいい。

 そして、体のできるだけ多くの部位がその風に当たることができるように両手を頭上に伸ばし、体を斜めに折り曲げて徐々に無理な体勢になっていく。

 通路にはそれなりの通行量があり、おじさんやカップルが、私の弛緩してアゴがはずれそうになっている哀れな顔と「そんなにその風に当たりたいのか?」と問いかけたくなるような無理な体勢を横目に歩いていく。





ああ。


幸せだ。


本当に幸せだ。


こんなやわらかな


幸福はいつぶりだろう


 だが、その弛緩しきってヨダレが出かかっている顔で、目を閉じながら幸福感の原因をしばらく考えていると
あることに気づいた。



 この「幸福感」の原因は
暑い中クーラーの風を浴びて
流れ出る汗を弔っているという
その清涼感からではなく、





 その通路を通過していく人々が私の「幸せが漏れ出ているだらしない顔面とその姿」を見て、その人たちも幸せそうに笑って通り過ぎて行くからであると気づいた。



 くすくす笑いながら通り過ぎていくお姉さん。「あの人、おもしろくない?」などと会話をするカップル。ちらちら横目で見て、「ニヤッ」とするおじさん。

 私は薄目をあけてそれらを目撃・観察した。

 スーツを着た大人が簡単に見せることもないような無防備な顔と体勢を見て、私とすれ違ってくださった何人かが、「暑いからな〜。ああしたくなる気持ちもわかる。でも、だいの大人はそこまでしないだろ。」と言いたげに微笑みながら歩いていった。

 それだけで私は、大いにやる気を取り戻し、ウナギを食べなくて、腕立て伏せをしなくても元気になった。 そして、この駅を通過してよかったな。と思えた。


 達人に少しだけ近づけた気のした夏の夕暮れだった・・・ (ミーンミンミンミンミン・・・なぜか蝉の声・・・)







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